白夜

夜は唯一の休息時間であり、一人になれる時間であり、つまりは心と体を本当に休められる時間だった。だから僕は夜が好きだった。中学の時にそれを友達に伝えると、おちょくるような声音だったので不快に思った覚えがある。

夜になると、家に帰って、ベッドに寝転んで、ゲームや音楽を楽しむ。中でも、友達と電話をするのが僕は格別に好きだった。だが、気を遣ってしまって自分から電話をかけられるのはごくわずかな親友しかいない。最近は後輩と電話をしながらアクションゲームをするのが何よりの快楽だった。最近はゲームがメインと言うよりも、彼に話を聞いてもらうことが主になっている気がする。いくら夜が休息時間とは言え、自分の卑下や邪推は収まらないので、それを忘れさせてくれる貴重な時間だった。彼には愚痴や相談事をして、本当にいい後輩だな、と思う。先輩として情けないとは思うが、今は彼に甘えてしまっている。

自分の悪癖である夜中の考え事で最近最も登場するのは、恋愛についてだった。僕は今恋人がいないのだが、いい加減それについてなんとかしなくてはならないと薄々は感じている。もう色々と終わってしまう時期に差し掛かっている。もちろん自分の魅力が薄いことにも気がついているし、それに関してはゆっくりと改善しようとしてはいるが、最近はそれすら怠ってしまっていた。気がついたら周りはカップル同士だらけで、インスタにはデートの動画が毎日アップされる。僕はそれを夜中に見ながら鬱々としていた。「文系大学生で恋人がいないのはゴミ」とよく言われるし、対して偏差値も高くない大学なので、自分が社会不適合者なのではないかと思われてしまう。しかし、なかなかこれは解決し難い問題だった。恋愛ほどうまくいかない課題というものはない。よく別れてもひっきりなしに恋人ができるひとたちが存在するが、どんな魔法を使っているのだろうと思う。もしくは、前世に大きな徳を積んできたのだろうか。僕には大した魅力もないのだから、せめて明朗で快活であれ、とは思うが、自分に降りかかる困難を思うとなかなかそうもいかない。「きみは性格がいいから、大学生になったらきっとモテるよ。」と中学の時、女子に言われたことがあるが、それは全くの嘘であるとこの歳にして気がついてしまった。恋愛で必要なのは、もっと刺激的で魅力的な何かだ。嘘をつくのなら責任を取って僕と付き合ってほしい。いや、彼女も今は彼氏がいて大学生活を悠々自適に過ごしているかもしれない。まさに四面楚歌だった。恋人持ちの友人たちが敵にしか思えなくなってしまっていた。

結局今日も意味もなく4時過ぎまで起きてしまった。休息時間を無駄にしてはならないと、睡眠時間を削って精神の回復に当てているが、これはまったくもって本末転倒だろう。僕はやはりバカなのかもしれない。夜があと24時間くらいあったならば。 朝が怖い。朝が迫って来る。また働き出さねばならない。明日も昨日と同じような朝が来て、昼が来て、疲れ果ててまた朝が来る。将来への不安も確かにあって、今の生活に対する欲求不満も確かにあって、それを考えさせるような時間だとしても、僕は夜の闇の中に紛れて逃げていたい。明けない夜はないと言うが、すぐに明けてしまう夜もどうかと思う。最近は日が昇るのが早すぎる気がする。これは本当に良くないことだ。僕の部屋は遮光性のないカーテンだったので、朝日が直に部屋を直撃する。またカーテンが群青色に染まっていく。

もうすぐ僕の部屋に太陽が来る。

 

どうかこの夜が朝にならないで

強く思うほど 願うほど

赤い秒針はそんな私を嘲笑って

この時間を吸い取っていくだけ