銀河鉄道の夜

北風は吹雪くのをやめ カシオピア輝いて

恋人たちは寄り添って 静かに歌うのでした

 

 

恵比寿ガーデンプレイスは煌びやかで、そこに集まるカップルたちは穏やかな様子で赤い絨毯の上を歩いていた。「もうクリスマスだね」と君は言った。そうだね、と僕は返して、それからは君の高校時代の思い出を聞いたりしていた。

君の行きつけの珈琲店に行って、君の知り合いの店員さんに会釈をして、少し熱い珈琲を啜った。君は途切れることなく話を続けて、僕は頷いたり相槌を入れたりしながら君の話を聞いていた。前日のアルコールのせいか緊張のせいかは分からないが、何回も何回も頻繁にトイレへ行ってしまった。君は笑いながらまた?と言って、時折煙草を吸いに外へ出たりしていた。


君は頬を赤らめて、時折八重歯を見せて、その満月のような眼を三日月にしていた。その表情はきっと君の本当の気持ちを示していたのだと思う。共通の友人の名前を出して、気持ちがわかるね、とお互い照れ臭そうに笑った。水に何度も口をつけても唇の乾きは収まらず、時折俯きながらそれを誤魔化した。熱かった珈琲が冷めきるまで僕たちは話を加熱させて、一杯の珈琲で3時間近くも店内に留まっていたことを申し訳なく思った。店外にはクリスマスツリーが派手な電飾で彩られたりして、昼のように明るかった。


絢爛と喧騒を抜けて、僕たちは夜の道を歩いた。まっすぐな道だった。時折赤信号が僕らの歩みを止めては、青信号が僕らの足を踏み出させた。誰もいない夜道に僕らの声は響いて、そんなことも知るまいと、埼京線は僕らの話を遮った。今日は一段と風が冷たかったが、頬が熱くなっているのか、そこまで寒さを感じることはなかった。その夜道は僕らだけの世界だったが、口笛を吹く自転車や、しゃがみながら煙草を吸う二人組や、灯りの消えた喫茶店のガラスを鏡にして踊る若者のものでもあった。だが、過ぎ去っていく彼らとは違って、君は僕の隣を歩いていた。


僕は信じきることができず、足をついて踏みしめている最近の生活とは対照的に、シャボン玉がふわふわ宙に浮く感覚に似ていた。その心の浮つきで、僕の身体も浮かんで東京の夜空に飛び立ってしまいたかった。

 


銀河鉄道の夜 

僕はもう空の向こう 

飛び立ってしまいたい

あなたを 想いながら