手記 ①

2/5 (水)

夜の道を歩き続けるのは寒い。しかしひたすらに歩き続けなければならない時もある。それは立ち止まりたくなる哀れな精神との闘いである。肉体との乖離を感じる。耳にはゆらゆら帝国が流れてくる。トレモロのかかったリフが永遠に終わることがないようで、気持ち悪かった。

医者は梳かしたあとがきれいに残った白髪混じりの男だった。冗談を言うたび歯の黄ばみが目立った。何を言っているのか分からない時もあったが、彼の言葉は僕のささくれだった心の薄皮を剥がさなかった。また、時間が長く丁寧で驚いた。僕は土曜まで歩き続けることにした。

夜は深い。小さな蛍光灯が天井を照らしていた。予想に反してLINEの通知は溜まっていく。それを溜めたままにせずにはいられなかった。億劫というよりも恐怖が強かった。汚れてしまった紙切れがあるならば僕は捨ててしまいたい。否、それは誰だって同じだろう。犬が遠吠えをするのと同じように、白い紙切れは宙に舞うのだった。ゴミは部屋に溜まっていくばかりで、一度も開いていないカバンや、ギターや、脱ぎっぱなしのTシャツに火をつけたかった。雪なんて積もっていないじゃないか。失われた2200円のことなどを思った。

それでも僕は結局一人でいることを選択した。兎にも角にも、頭の中の国会は大紛糾しているのだ。戦時中などはまさにこのようだったろう。欲しがりません勝つまでは。半纏にホウキを持った少女の顔などが浮かんだ。

結局夜に限らず冬は寒いのだ。凍える足をさすりながら、春の訪れを待つ。だが、何年も前に春はもう過ぎ去ってしまっていた。顔を隠すようにして布団を体に巻きつけている自分はなんて哀れなんだろう。